動物写真を楽しもう〜壺齋散人の生命賛歌
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犬の知的能力



アメリカのニュージャージーで飼われているラブラドゥードル犬Labradoodleのジェットは非凡な能力を持っていると評判だ。

彼のご主人は癲癇のほか、不安症やうつ病を患い、また低血糖症に苦しんでいる。時たま起こる発作に備えて、彼は常にご主人と行動をともにし、少しでも発作の兆候が現れるとただちに適切な行動をとる。不安の発作に対しては、ご主人の膝元におもちゃを置いて不安をなだめたり、癲癇の発作に際しては、すばやくご主人の下にもぐりこみ、頭を強く打たないようにクッションの役目を果たしたりする。

ジェットに限らず犬の中には、精神障害をもったご主人の気持ちを和らげる非凡な能力を持っているものが多い。たとえば暗闇を怖がるご主人のために電灯を点してあげたり、薬を飲むように促したり、時には自殺や自損行動を踏みとどまらせたりする。犬のこうした能力に着目して、アメリカ軍当局も、戦場で神経障害に陥った軍人のために活用しようとする動きもある。

犬のこうした能力は何に基づくのか、犬にも一定の知的能力があるのか、それとも鋭敏な臭覚などの本能に基づく条件反射的な行動なのか。実際犬の臭覚は動物の中で最も優れたものであり、人間の体内から出る匂いによって、その人の身体状況の異常を嗅ぎ取ることもできるとわかってきた。だからジェットも臭覚を通じて主人の異常を感じ取り、主人を慰めたり防衛したりする行動をとるのかもしれない。

だが犬の能力は単に本能に基づくものにとどまらず、一定の知的レベルに達しているとの見方もある。カナダの心理学者スタンリー・コーレン教授は、犬にも人間の認知能力と共通するような一定の知的能力があるのに、我々はそれを過小評価してきたと批判する。

それには19世紀に話題になった、考える馬の逸話が影響していると教授は言う。クレヴァー・ハンスという馬が、モノを数えたり時間を知らせる能力を持っていると評判になり、馬にも人間と同様な知性が備わってるとの説が流れたことがあった。だがそれは、馬が人間の顔色を察知して、単に反射的に行動しているに過ぎないのに、人間が勝手に、馬が自発的に判断しているのだと勘違いしているのだと、後になって実証された。

このことを通じて、人々は動物に知性を求めるのは馬鹿げたことだと思うようになった。それが動物の能力を正しく知るうえで、悪い影響をもたらしたと、教授は強調する

ドイツの研究グループが2004年に行った実験によれば、リコという名のボーダーコリーは200もの単語を学習し、それを一ヶ月後にも思い出すことが出来た。この実験が契機になって、その後、犬の言語能力を測る大規模な実験が行われ、リコのケースが例外でないことが確かめられた。犬の中には人間の子どもの2歳から2歳半くらいのレベルの言語能力を持つものも認められた。

この実験がもとで、犬にも高度の認知能力が備わっているのではないかとの見方が広まりつつある。

だがこうした見方には、いまだ批判的な人も多い。犬が人間と共通する知的行動をしていると結論付けるのには、十分な根拠がないというのだ。そうした人たちは、犬の行動に見られる認知に似たプロセスは、知的なものではなく、本能に基づいたものだと強く主張する。犬は本能的に自分の周囲にいる人間を自分の仲間だと認知し、とりわけ主人に対しては敏感に反応する。その敏感さが、まるで知恵をもっているように、人間の目に映るだけだというのだ。

それにしても、犬がもしも人間と共通するような知性や感情を、ほんの少しでも持っていたとしたら、我々人間と犬との間の友情は、もっと肌理の細かいものになれるだろう。

(参考)Good Dog, Smart Dog By SARAH KERSHAW(写真とも New York Times、イラストはRoss Macdonald)







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