動物写真を楽しもう〜壺齋散人の生命賛歌
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アサギマダラ(浅葱斑):旅する蝶



1980年代に、台湾や沖縄諸島から本州へ渡り飛ぶ蝶のいることが確認されて、大きな話題となったことがあった。アサギマダラという大型の蝶で、もともと本州でも確認されていたものだが、それが1000キロ以上もの距離を飛んで、南西諸島から本州へと渡っていることは意外な発見だった。

アサギマダラは台湾や沖縄で成蝶となり、春になると暖かい南風に乗って本州へと渡る。その間は海上を飛び続けるので、飲まず食わずである。飛ぶのに疲れると穏やかな波を選んで羽を休める。こんな健気な姿が人々の共感を呼んだ。

ところがその後の研究で、この蝶は秋になると本州から南西諸島へと、春とは逆の方向へ旅することが分ってきた。どうも春から秋にかけての暖かい季節には本州で暮らし、晩秋から冬にかけての寒い季節には暖かい南の島で暮らしているようなのである。

その点は渡り鳥とよく似ている。しかし渡り鳥と異なるのは、北上するグループと南下するグループとが違う世代に属することだ。アサギマダラは、春に本州で発生した世代は秋に成蝶になって南へと移動する。そしてそこで卵を産んだ後は南の島で一生を終える。秋に発生した子どもの世代は翌年の春に成蝶となって、北へと移動する。そしてそこで卵を産んで、次の世代が再び南へと向かうのを待つ。

アサギマダラは半年毎に世代が入れ替わり、それが大移動というイベントによって区切られているわけだ。

アサギマダラがなぜこんな生き方を選んだのかは、よく分っていない。しかし、通常は一年単位の生殖のサイクルが半年単位に短縮されるわけだから、種の保存という面では有利に働くとはいえる。

アサギマダラがこんなちっぽけな姿で長い距離を飛べるにのは、自然の助けが働いているようだ。何しろ東北地方のアサギマダラが台湾まで旅をした例も確認されているとおり、飛行距離は1500キロを超えることもある。あの小さな姿では、自力だけでこの距離を飛ぶのは並大抵ではあるまい。

春には偏西風が彼らの飛翔を助けているようだ。これに乗れば一日で数百キロを飛ぶこともできるだろう。実際アサギマダラは気流に乗って飛ぶ方法を主体にしており、アゲハのように羽をバタバタさせることがない。そんな飛び方ではすぐ疲れてしまうだろう。

秋は偏西風の助けは得られない。その代わりをするのが台風だ。台風が日本列島を通過するとき、北から南に向かって大風が吹く。どうもこれがアサギマダラを一気に運んでくれる原動力となっているらしい。

それにしても、こんなちっぽけな生き物の中に、壮大な旅のプログラムが刷り込まれているとは、なんとも驚きに耐えない。







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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2012
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